・昨今、中小企業において事業承継への関心が高まっています。事業承継とは「会社の経営を後継者に引き継ぐこと」です。中小企業が継続的に発展するためには円滑な事業承継が必要ですが、円滑な事業承継を推進するにあたってどのような課題が存在するのでしょうか。
・中小企業の事業承継における課題は、①「後継者の選定」に関するもの、②「財産の承継」に関するもの、③「経営の承継」に関するものといった3つのグループに大別されます。「後継者の選定」は、事業承継を行ううえで最初に直面する課題です。後継者の候補を確保する、複数の候補者から後継者を絞り込むことなどというプロセスがこれらに含まれます。しかし、後継者を選定しただけでは事業承継が円滑に進むとは限りません。選定した後継者に対して、財産面、経営面の承継を行わねばなりません。「財産の承継」には、後継者による会社の株式や事業用不動産の買い取り、後継者の相続税負担に対する対策、借入金がある場合にはそれらに対する個人保証や担保に関する手続きなどが含まれます。「経営の承継」には、後継者の教育に加えて、後継者が役員や従業員、取引先、金融機関などといった社内外の利害関係者からの支持・理解を確保することなどが含まれます。このように、中小企業の事業承継における課題は広範で、その解決は容易ではありません。
・では、その中で特に重要な課題とは何でしょうか
・中小企業金融公庫総合研究所(現・日本政策金融公庫総合研究所)が実施したアンケート調査の結果によると、「後継者の教育」をあげる企業が全体の72.7%と最も高い割合を占めています。次に高い割合を占めているのが「従業員などの支持、理解の確保」(36.2%)であり、「取引先、金融機関などの支持、理解の確保」 (18.9%)も比較的高い割合を占めています。これらは「経営の承継」に関する課題です。
・これに対し、「経営者の個人保証、担保」(11.8%)、「相続税対策」 (10.8%)、「株式(経営権)の後継者への集中」(5.8%)といったような「財産の承継」に関する項目を課題としてあげる企業の割合は、相対的に低くなっています。金融、税制、財務面に関する事項は、事業承継にあたって重要な課題ですが、これらはいずれも事業を承継する局面で出てくるものであり、現社長が健在なうちは喫緊の課題としてとらえにくいことを示しているのかもしれません。
・事業承継の課題というと「財産の承継」が着目される傾向にありますが、アンケート調査の結果からもわかるとおり、円滑な事業承継を推進していくためには、後継者をどのように育成していくか、後継者が従業員や役員、取引先や金融機関などの社内外の利害関係者から、どのように支持や理解を確保していくかといった「経営の承継」に関連する事項に対して、現経営者がより注力する必要性があることを示していると考えられます。