・政府は12月22日、2010年度税制改正大綱を閣議決定しました。政権交代後初となる税制改正は4年ぶりの増税路線。「納税者主権の確立へ向けて」とする表題で、自民党政権の産物である現行制度が「一部に既得権が生まれるなど納税者の納得からかけ離れている」と批判したうえで「控除から手当てへ」の転換を明記しました。
・その象徴ともいえる所得税と住民税の扶養控除は、子ども手当導入を機に15歳以下の年少者については廃止。23歳~69歳が対象の成年扶養控除は維持することとしました。また、16歳~22歳が対象の特定扶養控除は、高校無償化の恩恵を受ける16~18歳に限って上乗せ分のみ縮小します。
・焦点となったガソリン税などの暫定税率は、来年3月末で一応「廃止」とするものの、現行の暫定税率と同水準の新たな租税特別措置を講じることで実質的に「維持」の方向。
・また、たばこ税は本体の値上げ分も合わせて1本あたり5円程度の引き上げとなり、これにより一箱300円の一般的なたばこは400円に値上がりします。
・このほか、民主党マニフェストに明示された中小企業に対する軽減税率の引下げ(現行18%→11%)も財源不足を理由に見送り、一定の設備を取得した場合に特別償却または税額控除が認められる情報基盤強化税制もいったん廃止としました。
・全体に税収確保優先の増税改正に仕上がっている2010年度税制改正大綱ですが、景気浮揚対策としての減税改正も一部盛り込まれています。
・一定の同族会社が社長に支払った給与の一部を損金不算入扱いとする「一人オーナー会社課税」は、マニフェストに掲げた通り廃止。その他、交際費の非課税枠や投資促進税制、少額減価償却資産の損金算入特例など中小企業向けの租税特別措置については、その多くを延長としました。
・また、住宅取得資金贈与の非課税枠も現行の「500万円」から「1500万円」へ大幅に拡大。不動産市場の活性化が景気の底上げに繋がるかが注目されます。
2010年度税制改正大綱の骨子は以下の通りです。
【納税環境整備】 ・社会保障・税共通の番号制度の導入を進める。 ・日本年金機構を廃止し、機能を国税庁に統合、歳入庁を設置する方向で検討進める。
【個人所得課税】 ・2010年度に0歳から15歳までの子どもを控除対象とする扶養控除を廃止。個人住民税も同様の措置。 ・16歳から22歳までの特定扶養親族を控除対象とする特定扶養控除は上乗せ部分を廃止。個人住民税も同様の措置。 ・23歳からの69歳までの成年を対象とする扶養控除、配偶者控除も見直しに取り組む。 ・給付付き税額控除は社会保障制度の見直しとあわせて検討進める。 ・非課税口座内の少額上場株式などに係る配当・譲渡所得の非課税措置を2012年に創設。
【法人課税】 ・租税特別措置の見直しで課税ベースが拡大した際には、企業の国際競争力や国際協調などを勘案しつつ、法人税を見直す。 ・中小法人に対する軽減税率の引き下げは、課税ベースの見直しによる財源確保などと合わせ、早急な実施に向けて検討。
【国際課税】 ・移転価格税制について、2010年度税制改正において必要な改正を行う予定。 ・地球規模の問題解決のため、国際連帯税の検討を早急に進める。 ・海外投資家が保有する社債利子などの非課税制度を創設。
【資産課税】 ・相続税の課税ベース、税率構造の見直しについて2011年度改正をめざす。
【消費税】 ・消費税のあり方について、今後、社会保障制度の抜本改革の検討などとあわせて、使途の明確化、逆進性対策、課税の一層の適正化も含めて検討していく。
【個別間接税】 ・酒税はアルコール度数に着目した税制とすることを検討。 ・たばこ税は2010年度において1本あたり3.5円の税率上げ(価格上昇は5円程度)を行う。 ・たばこ税は、国民の健康の観点から、たばこの消費を抑制するため、将来に向かって、税率を引き上げていく必要。 ・現行の暫定税率は廃止するが、当分の間、揮発油税、地方揮発油税、軽油引取税について現在の税率水準を維持する。 ・ただし、石油価格高騰時には、本則税率を上回る部分の課税を停止するための措置を併せて講じる。 ・地球温暖化対策のための税について、2011年度実施に向けて成案を得るべくさらに検討。 ・自動車重量税は、暫定税率による上乗せ分の国分の約2分の1に相当する規模の税負担の軽減を図る。 ・「エコカー減税」(2014年4月末まで)は制度の仕組みを維持。
【今後の進め方】 ・今後の進め方で、専門家委員会を近日立ち上げ、税制全般にわたる詳細な検討を進める。課題のなかには、給付付き税額控除の制度設計や国際課税などの実務的・技術的課題も含む。 ・税制抜本改革実現に向けての具体的ビジョンとして工程表を作成。国民の納得を得たうえで工程表に基づき税制の抜本改革を実現。
・タックスヘブン(租税回避地)を利用した租税回避が問題となっていますが、わが国も外国子会社合算税制、いわゆるタックスヘブン税制を設けて規制に取り組んでいます。
・しかし今、中国や韓国などの近隣諸国に外国子会社を持つ日本企業の間で、このタックスヘブン税制が頭痛のタネになっています。
・タックスヘブン税制とは、法人実効税率の低いタックスヘブンにある子会社を利用した租税回避を規制する租税特別措置(昭和53年導入)。こうした外国子会社が利益を内部留保した場合、留保利益のうち親会社の持分に相当する額は親会社の所得とみなされ日本で課税されます。「タックスヘブン」とされるのは、法人税の実効税率(トリガー税率)が25%以下の国や地域です。
・世界的にも法人実効税率は引下げ傾向にあり、平成20年1月には中国で法人実効税率が25%に引き下げられました。これによりタックスヘブン税制の適用対象となってしまうため、中国に子会社を持つ日本の法人から悲鳴が起きています。
・また、お隣の韓国でも24.2%にまで引き下げられており、日本法人が子会社を設置することが多い国々が軒並み「25%以下」とされたことで、既にこれらの国々に子会社を置いている日本法人は、突然タックスヘブン税制の対象になってしまうというシビアな現実に直面しているわけです。
・これに対して経済界は猛反発。さきごろ公募された経済産業省の税制改正要望では、日本経済団体連合会や日本商工会議所、日本貿易会などが「タックスヘブン税制のトリガー税率を15~20%に」とする要望書を提出しました。
・鳩山内閣は「租税特別措置法(租特)プロジェクトチーム」を設置し、租特見直しに取り組んでいますが、タックスヘブン税制に関する各方面からの要望にどう対応するのか、今後の論議に注目が集まります。
・会計検査院はさきごろ、マンション経営で租税回避を行う手法が横行しているとして、実態を調査するよう財務省に要請しました。その内容は、決算検査報告書に盛り込まれる予定です。
・この手法とは、賃貸マンションやアパートを建設した際に、合わせて自動販売機を設置して消費税の還付を受けるというやり方です。
・消費税には多重課税を避けるために仕入控除という仕組みが採られていて、事業者は売上にかかる消費税から、仕入にかかった消費税を控除した金額を国に納めます。逆に仕入にかかった消費税の方が多ければ、税金は還付されます。
・しかし、住居用賃貸物件の賃料は非課税で、計算の元になる売上消費税がないため消費税の還付申告はできません。
・ところが、実は自販機を設置するだけで「合法的に還付を受けられる」方法があるのです。
・これは、消費税の仕入税額控除の「95%ルール」を使ったもの。95%ルールとは、仕入税額控除の計算上、課税売上割合が全売上の95%以上あれば、事業にかかる仕入消費税額の全額を控除できるという制度のことです。
・たとえば、初年度の賃料売上をゼロにして、自販機売上だけにすれば、自動的に課税割合は100%となります(ほかに事業を行っていない場合)。この場合95%ルールによれば、「賃貸経営の仕入消費税(実際はゼロ)+自販機の売上消費税」から「賃貸経営の仕入消費税+自販機の仕入消費税」を差引くことができます。
・これはいわば法律のすき間をついた手口で、これまで国はその存在を認知しつつも法改正の動きはなく、具体的な対策は先送りされてきました。
・規制を行うとなると、①個別対応方式の税額計算を義務化②仕入額控除の税額調整を免税業者にも適用などが考えられますが、いずれも一長一短。
・今後の動向に注目が必要です。